「新技術だけでは地球を守るのに充分ではありません。(~文中より)」
地球のためにまず必要なこと。
それはわたしたちが地球と恋に落ちること。
COP21に先駆けて国連気候変動枠組み条約事務局がティク・ナット・ハンに世界的な精神的指導者としての声明を求め、昨年発表された『Falling in Love with The Earth~地球に恋して~ティク・ナット・ハン』。
『…このインタービーングという洞察は環境危機へ対する仏教からの比類なき貢献です。この12月のCOP21においてもそして遥か未来においても、愛、思いやり、寛容さ、そして私たちの互いへの相互依存という洞察が必要とされていると、ティク・ナット・ハンは提唱したのです── 』
(ハフィントン・ポスト英語版 2015年11月5日)
恵みにあふれ、命を産み出す、私たちが地球と呼ぶ、この美しい惑星。
この惑星から命を授かった私たちは、すべての細胞の内に地球を宿しています。
<We and Earth are one ─私たちと地球はひとつ>
私たちの母なる地球は、どんな瞬間も私たちを養い、守っています──地球は私たちに呼吸するための空気、飲むための新鮮な水、食べるための食物、そして病にかかれば治癒のための薬草を捧げています。私たちが息を吸うたび、この惑星の窒素、酸素、水蒸気、微量元素を呼吸しているのです。
こうした対象に意識を向けて呼吸していると、自分自身が地球の精微な大気、あらゆる植物、そして光合成という奇跡を起こす太陽とまでも、相互に依存しながらここにあることを肌で感じることができます。
呼吸のひとつひとつが私たちにとっての聖体拝領であり、命の神秘に触れさせてくれるものです。
私たちの物の考え方や見方を改めなければなりません。
地球は単なる「環境」ではありません。地球は私たちの外に存在するものではないのです。
呼吸にマインドフルになって、自分の体を静かに深く見つめるとき、自分とは地球そのものであることが分かります。自分の意識とはまた、地球の意識であることが分かります。
あなたの周囲を見渡してみてください──あなたが目にするもの。それは「環境」ではなく、「あなた自身」なのです。
<Great Mother Earth ─偉大なる母─『地球』>
わたしたちがどんな国籍や文化に属していようと、そして信仰する宗教にかかわらず ──仏教徒、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、無神論者であろうと ── 地球とは無生物や不活性の物質ではないことは明らかです。
地球はそれ自身が大いなる存在であるばかりか、他の数々の偉大なる存在──仏たち、菩薩たち、預言者たち、聖者たち、神の御子ら、そして人類──をも産み出しました。
地球とは愛に満ちた母親であり、あらゆる人々と生物を差別することなく守り、支え養っているのです。
地球が自分の「環境」よりも、ずっと大きな意味をもつ存在だと気づくと、わたしたちは地球を自分自身と同じように大切にしようと心動かされるのです。
こうした自覚と覚醒が私たちには必要です。
地球の未来は私たちがこうした洞察を培えるかどうかにかかっているのです。
地球とそして地球上のあらゆる種が危機に瀕しています。しかし、わたしたちが地球との親密な関係を築くことができれば、この命がたどりゆく道筋を変えるのに充分な愛と強さ、そして覚醒を得ることが出来るのです。
<Falling in love ─恋に落ちて>
地球のすばらしい調和と優雅さ、美しさを理解すると、わたしたちは皆、地球への深い敬愛を覚えます。桜のほんの一枝、かたつむりの殻、コウモリの羽。どれもが、地球のみごとな創造力の証しを宿しています。
科学的進歩による一つ一つの解明が、この奇跡に満ちた星へのわたしたちの尊敬とと愛を深めていきます。
私たちがほんとうに地球に触れ、そして地球を理解するとき、愛が私たちの胸に生まれます。私たちはつながりを覚えるのです。一体となること──これが愛の意味です。
わたしたちがもう一度地球と恋に落ちるとき、崇敬と互いの繋がりへの洞察が、私たちを行動へと駆り立てます。でも、私たちの多くが未だ地球から疎外しています。
迷い、孤立し、孤独のままです。働き過ぎ、忙し過ぎる人生を送り、落ち着きなく、気の散ったまま、消費に我を失っています。
でも地球はいつでも、私たちの滋養と癒しに必要なすべてを捧げながら、私たちのために存在しているのです。
奇跡のようなとうもろこしのひと粒。英気を養うさわやかなせせらぎ、芳しい森、荘厳な冠雪の山頂。歓喜に満ちた夜明けの鳥たちの歌。
<True Happiness is made of love ─ほんとうの幸せは愛でできてる>
私たちの多くが、お金や権威や権力を手に入れなければ、幸せにはなれないと考えています。そして富や、権威、権力を夢中で追い求めるあまり、すでに存在するあらゆる幸せの条件を無視しているのです。
そして必要もない程のモノの購入と消費に我を失い、自分と地球というこの身体に重いかせを背負わせているのです。
それなのに、私たちが飲むもの、食べるもの、観るもの、読むもの、聴くものの多くが有害で、自分の心と身体を暴力や怒り、恐れや絶望で汚染しているのです。
二酸化炭素(CO2)が物質的にわたしたちの環境を汚染することを論じるように、人類の精神的な環境においての汚染についても論じられるべきです。
有害で破壊的な風潮が、わたしたちの消費の仕方によってつくり出されています。
消費とは、私たちの真の平和と幸せを持続可能にする方法で行われるべきです。
私たち自身が人間として持続可能になって初めて、この文明社会は持続可能となるのです。
わたしたちはいまこの瞬間に幸せになることができるのです。
幸せになるために、たくさんの消費は必要はありません。ほんとうはとても簡素な暮らしで充分なのです。気づきが共にあれば、どんな瞬間も幸せの瞬間へと変わるのです。
呼吸をひとつ味わって、ただ立ち止まって鮮やかな青空を深く見つめる瞬間、または愛する人の存在を心一杯に感じる瞬間、わたしたちはすでに充分過ぎるほど幸せです。
一人ひとりがもう一度、自分自身へ、愛する人たちへ、地球へと帰り、つながりを取り戻すことが必要なのです。
お金や権力や消費がわたしたちを幸せにするのではありません。
私たちを幸せにするもの。
それは、この胸に抱く愛と理解なのです。
<The bread in your hand is the body of the cosmos ─あなたが手にするパンは 宇宙そのもの>
わたしたちの思いやりを育み続けることのできる消費の仕方が必要です。しかし多くの消費が非常に暴力的な方法によるものです。
何百万もの人々が飢えで命を失っていく中、肉牛を育てたり、酒類の製造のために森は切り払われます。
肉と酒の消費量を5割削減することは、自分自身と地球、そして仲間への愛の行動です。
思いやりをもって食べることは、地球が直面する事態を改善し、私たち自身と地球が調和を取り戻すことを助けるのです。
<Nothing is important than brotherhood and sisterhood ─お互いの兄弟・姉妹としての愛ほど大切なものは何もない>
私たち一人ひとりの内から起こる革命が必要です。朝起きたらすぐに私たちが地球と恋に落ちることが必要です。
私たちは永い間、ホモ・サピエンス(ラテン語で「賢い人」の意)として生きてきました。
これからは、ホモ・コンシウス(気づきの人)へと進化を遂げるのです。
地球への愛と尊敬の思いには、私たちをひとつにし、どんな境界も分裂も差別をも取り除く力があるのです。
何世紀にもわたる個人主義と競争は、膨大な破壊と疎外をもたらしました。
私たちはもう一度自分自身と、地球、同じ母の子同士であるお互いの間で真のコミュニケーション──真のコミュニオン──を取り戻す必要があるのです。
新技術だけでは、地球を守るのに十分ではありません。真の共同体と協調が求められているのです。
どんな文明も無常であり、やがては終焉の日が訪れます。しかし私たちが今の針路が変えなければ予想よりもずっとはやく、この文明社会が滅びることは明らかです。
地球が癒え、その素晴らしい調和と美を取り戻すまでに何百万年もかかるでしょう。
地球は回復を遂げても、私たち人間と多くの生物たちが姿を消すことになるでしょう。
この地球がふたたび未来に私たちを再び新しい形態を持って産み出す条件が整えることができるまで。
文明社会が永続しないことを、平和をもって受け容れるとき、私たちは怖れから自由になります。
こうして初めて、私たちはお互いと一体になる為の力と覚醒、愛を得ることができるのです。
この貴い惑星地球を愛しみ、恋に落ちることは義務ではありません。
これは個として、そして集合体としての私たちの幸福と生存についての問題なのです。
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ティク・ナット・ハンから国連気候変動会議(2015)への返答メッセージ。
『 Falling in love with the Earth ~ 地球に恋して ~』(国連気候変動ニュースルーム/ UN Climate Change NEWSROOMより)
日本語訳 Kanako(心慈覚/ハート・オブ・東京サンガ)
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THICH NHAT HANH
Falling in Love with the Earth
This beautiful, bounteous, life-giving planet we call Earth has given birth to each one of us, and each one of us carries the Earth within every cell of our body.
We and the Earth are one
The Earth is our mother, nourishing and protecting us in every moment–giving us air to breathe, fresh water to drink, food to eat and healing herbs to cure us when we are sick. Every breath we inhale contains our planet's nitrogen, oxygen, water vapor and trace elements. When we breathe with mindfulness, we can experience our interbeing with the Earth's delicate atmosphere, with all the plants, and even with the sun, whose light makes possible the miracle of photosynthesis. With every breath we can experience communion. With every breath we can savor the wonders of life.
We need to change our way of thinking and seeing things. We need to realise that the Earth is not just our environment. The Earth is not something outside of us. Breathing with mindfulness and contemplating your body, you realise that you are the Earth. You realise that your consciousness is also the consciousness of the Earth. Look around you–what you see is not your environment, it is you.
Great Mother Earth
Whatever nationality or culture we belong to, whatever religion we follow, whether we're Buddhists, Christians, Muslims, Jews, or atheists, we can all see that the Earth is not inert matter. She is a great being, who has herself given birth to many other great beings–including buddhas and bodhisattvas, prophets and saints, sons and daughters of God and humankind. The Earth is a loving mother, nurturing and protecting all peoples and all species without discrimination.
When you realize the Earth is so much more than simply your environment, you'll be moved to protect her in the same way as you would yourself. This is the kind of awareness, the kind of awakening that we need, and the future of the planet depends on whether we're able to cultivate this insight or not. The Earth and all species on Earth are in real danger. Yet if we can develop a deep relationship with the Earth, we'll have enough love, strength and awakening in order to change our way of life.
Falling in love
We can all experience a feeling of deep admiration and love when we see the great harmony, elegance and beauty of the Earth. A simple branch of cherry blossom, the shell of a snail or the wing of a bat – all bear witness to the Earth's masterful creativity. Every advance in our scientific understanding deepens our admiration and love for this wondrous planet. When we can truly see and understand the Earth, love is born in our hearts. We feel connected. That is the meaning of love: to be at one.
Only when we've truly fallen back in love with the Earth will our actions spring from reverence and the insight of our interconnectedness. Yet many of us have become alienated from the Earth. We are lost, isolated and lonely. We work too hard, our lives are too busy, and we are restless and distracted, losing ourselves in consumption. But the Earth is always there for us, offering us everything we need for our nourishment and healing: the miraculous grain of corn, the refreshing stream, the fragrant forest, the majestic snow-capped mountain peak, and the joyful birdsong at dawn.
True Happiness is made of love
Many of us think we need more money, more power or more status before we can be happy. We're so busy spending our lives chasing after money, power and status that we ignore all the conditions for happiness already available. At the same time, we lose ourselves in buying and consuming things we don’t need, putting a heavy strain on both our bodies and the planet. Yet much of what we drink, eat, watch, read or listen to, is toxic, polluting our bodies and minds with violence, anger, fear and despair.
As well as the carbon dioxide pollution of our physical environment, we can speak of the spiritual pollution of our human environment: the toxic and destructive atmosphere we're creating with our way of consuming. We need to consume in such a way that truly sustains our peace and happiness. Only when we're sustainable as humans will our civilization become sustainable. It is possible to be happy in the here and the now.
We don't need to consume a lot to be happy; in fact we can live very simply. With mindfulness, any moment can become a happy moment. Savoring one simple breath, taking a moment to stop and contemplate the bright blue sky, or to fully enjoy the presence of a loved one, can be more than enough to make us happy. Each one of us needs to come back to reconnect with ourselves, with our loved ones and with the Earth. It's not money, power or consuming that can make us happy, but having love and understanding in our heart.
The bread in your hand is the body of the cosmos
We need to consume in such a way that keeps our compassion alive. And yet many of us consume in a way that is very violent. Forests are cut down to raise cattle for beef, or to grow grain for liquor, while millions in the world are dying of starvation. Reducing the amount of meat we eat and alcohol we consume by 50% is a true act of love for ourselves, for the Earth and for one another. Eating with compassion can already help transform the situation our planet is facing, and restore balance to ourselves and the Earth.
Nothing is more important than brotherhood and sisterhood
There's a revolution that needs to happen and it starts from inside each one of us. We need to wake up and fall in love with Earth. We've been homo sapiens for a long time. Now it's time to become homo conscius. Our love and admiration for the Earth has the power to unite us and remove all boundaries, separation and discrimination. Centuries of individualism and competition have brought about tremendous destruction and alienation. We need to re-establish true communication–true communion–with ourselves, with the Earth, and with one another as children of the same mother. We need more than new technology to protect the planet. We need real community and co-operation.
All civilisations are impermanent and must come to an end one day. But if we continue on our current course, there's no doubt that our civilisation will be destroyed sooner than we think. The Earth may need millions of years to heal, to retrieve her balance and restore her beauty. She will be able to recover, but we humans and many other species will disappear, until the Earth can generate conditions to bring us forth again in new forms. Once we can accept the impermanence of our civilization with peace, we will be liberated from our fear. Only then will we have the strength, awakening and love we need to bring us together. Cherishing our precious Earth–falling in love with the Earth–is not an obligation. It is a matter of personal and collective happiness and survival.
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Thich Nhat Hanh wrote the statement in response to a request from United Nations Climate Change Chief, Christiana Figueres, for the UN “Thought Leadership Series.” The series offers spiritual perspectives in preparation for the Paris climate talks in December 2015.
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UN Climate Change NEWSROOM
Falling in Love with the Earth byZen Master Thich Nhat Hanh
http://newsroom.unfccc.int/1758.aspx