“…怒りを昇華するためには、それに対する正しい気づき*を一定時間保つ必要があります。これはじゃがいもを料理するようなもの。じゃがいもを鍋に入れて、蓋をして火にかけますね。強火にかけても5分後に火を止めてしまえば、じゃがいもはまだ生煮えです。火を通すには、少なくとも15分から20分、火にかけ続けなければなりません。そうして蓋をとれば、煮あがったじゃがいもの素晴らしい香りが漂ってきます。あなたの怒りもこれと同じようなものです──怒りには、料理して火を通す必要があるのです。初めはまだ、生のまま。じゃがいもは生だと食べられませんね。怒りとは最初はとても喜ばしいものではありません。でも扱い方や料理の仕方が分かれば、あなたの怒りのネガティブなエネルギーは、理解とコンパッションというポジティブなエネルギーに変わるのです。”
─ティク・ナット・ハン
*正しい気づき…マインドフルネス
怒りや落ち込みといったネガティブな感情は、振り回されなくてはならないものでなく、実はきちんとした料理法、すなわちその取り扱い方法があります。できるようになると、大切な人間関係にヒビを入れて後悔、なんてことを防いだり、思いがけず選択肢や手段に恵まれているのに気づくことも。怒りや悲しみの根をじっくり優しく見つめれば、自分を理解し、状況を打開するために冷静に行動できるだけでなく、感情に流されている時には気づくことのできなかった、自分自身の本当の願いや洞察を発見できることも。
【怒りの料理メモ:取り扱い方】
1. 1. 怒りの感情が押し寄せたことに気づいたらすぐ、会話も考え事もやめ、自分の呼吸にフォーカスする。ネガティブな考え事を封じるコツは、呼吸を微細に味わいながら、次のようなフレーズを繰り返すこと。「息を吸いながら、怒りが私の中にある。息を吐きながら、この怒りと丁寧に向き合う。」
(呼吸への集中が難しければ、ゆっくりとウォーキング。右足・左足それぞれの歩みにフォーカスし、呼吸やスローな歩みに意識を向け続け、身体の気づきへの集中を保つ。)
2. 2.怒りの正体は、心の中でギャン泣きする小さな赤ちゃんのような感情。赤ちゃんのお母さんになったつもりで、愛情をこめてやさしく抱っこし続けてあげるイメージング。これだけでもかなりの安堵感。じゃがいもが煮あがるまでにある程度の時間をかけて火を通すことが必要なように、集中する根気も必要だけれど、裏を返せば、感情は「正しい気づき(マインドフルネス)」を向け続ければ(=火にかければ)必ず変化する(=煮える)。
3. 3.怒りの感情がどこからきているのかを冷静に観察する。赤ちゃんが泣くのは、お腹がすいていたり、オムツが濡れていたりとの理由があるように、怒りには自分自身からの大切なメッセージが。見極めるコツは相手ではなく、自分の中にある「…が理解されなかった」「…な希望がかなわなかった」などの思い、あるいは思い違いなどの理由に根差して、心の中の怒りの種が刺激され、繁茂している状態だと知ること。
ほとんど習う機会のない、ネガティブな感情の扱い方。できるようになることは実はとっても大きな勝利。自転車を練習して乗りこなすように、だんだんと上手になるので、失敗してもあきらめず、そんな自分自身を許して、練習してみること。
強い負の感情が頻繁に起きる場合は、ドラマや漫画、ゲームなどの暴力性を含むエンターテイメントや、ショッキングなニュース、質の良くない会話が大きく影響を及ぼしていることも。そうした日常の中の『刺激物』の摂取を避け、自然の中をゆっくり歩いて楽しんだり、動物性食品を避けて野菜たっぷりの食事を感謝しながら味わったり、自分を穏やかにしてくれる、いきいきしたポジティブな『栄養』にたくさん触れる時間を持ち、過活動になりがちな頭をクールダウンさせ、心の体力をつけることも大切に。
怒りっぽい癖を家族間で受け継いでいる自覚がある場合は、強い感情が現れたら、似ている家族の癖が現れたことを思い出して、力を抜いてリラックスし、できればその家族を思い浮かべて微笑んでみて。
一人での実践が難しければ、実践コミュニティで仲間たちといっしょにトライ。
【翻訳・記事/西田佳奈子】